最期に一言~and now.~(1)

 それにしてもよく似ている。

 こうやって二人並んでみると、どちらがどちらだかほとんど見分けがつかない。辛うじて見分ける方法があるとすれば、円ちゃんが連れてきた女の子の方が少々色が黒いということだけだ。
この二人を目の前にした時の円ちゃんのお父さんとお母さんの顔こそまさに、「鳩が豆鉄砲食らったような」顔とでも言うのだろう。

「この人ね、インさん。中国からの留学生。バイト先で知り合ったんだけど、インさんは別にこっちにお金を稼ぎに来てるわけじゃなくて、お金なんか稼がなくてもいっぱい持ってるんだけど、社会勉強。仕送りで沖縄旅行行っちゃうくらいだから。私も便乗して行ったんだけどね。旅費だけ出して向こうでのお金は全部払ってもらっちゃって。すごくない?大学も一緒だし」
「そうです。なかよくです」
「仲良し、ね?インさん」
「はぁ…それはどうも…」
「大学が一緒って言ったけど、学部も一緒なの?」
「そう!インさんすっごく頭いいんよ~」
「まどかもゆうしゅうです」
「そうなんだ、うちの円と仲良くしてもらっちゃって、ありがとうね」

 お父さん、もっと他に言うことがあるでしょう。

 
 いや、僕にこそ言うべきことは山ほどある。今はどこに住んでいるの、この四年間はどうだった、卒業したらどうするの、こっちに帰ってくるの、それとも東京に戻るの、っていうかそれ以前にその人、インさんって誰?

 
 円ちゃんのお父さんとお母さんが聞きたいことも大体そこら辺のことだろうが、二人とも四年ぶりに会う娘を前にして気後れし、しかもその娘とそっくりの女の子が目の前にいることで、さらに会話の主導権を円ちゃんに握られてしまっている。僕という完全な部外者が同席することで、辛うじて二人はパニックに陥らずにいられているようだ。

「晋ちゃんも、久しぶりだね~、すっかり精悍な青年になっちゃって!若い頃の、ほら、あの人にそっくりだ!」
「そうねぇ、若い頃のあの人にそっくりだわ~」

 あの人って誰ですか?

 僕には円ちゃんのお父さんとお母さんがどんな気持ちを抱いているか、なんとなく分かる気がした。インさんという女の子を目の前にして、きっと心ちゃんのことを思い出しているのだろうと思う。もし彼女が生きていれば、きっとこんな光景も見られただろうになぁ、と。

「それでね、色々考えたわけよ、私たち、卒業後どうしよう、とか。でね、インさんのお父さんの会社がこっちに進出してきたいらしくて、そのためもあってインさんはこっちの大学に来てるわけ」
「そうです」
「そうなんですか」
「で、私もそれを手伝いたくて」

 ようやく話が核心に迫ってきた。

「それでね、せっかくだから、インさんと一緒に暮らそうかと思って」

 何?

「ここで」

 何を言い出すんだ、この女は。

~つづく~

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