火星での生活・8

ザクッ、ザクッ…

僕たちは今、学校の裏山の一本杉の根元で穴を掘っている。
この木は本当は杉ではなく、モミの木(クリスマスのあれ)なのだが、一本モミだと語呂が悪いし、第一ちょっと卑猥なので、無理矢理杉の木ということにされている。モミの木からしたらかなり迷惑な話だ。

「もうこれくらいでいいかな?」
「いや、まだまだ。三メートルは掘らないと、安心できないよ」

三メートルか…まだまだだな…もっとペースを上げないと夜明けまでに掘り終わらないよ…。

…おや?なんで僕はこんなことやってるんだっけ?隣にいるのは野口だし、白いシーツを被って横たわってるのは田所さんだ。何があったんだっけ?そうだ、順を追って思い出してみよう。はじめから、順を追って…

「わぁ!死んだ、田所さんが死んじゃった!」
「うわぁ!まさか、ビームサーベルで人が死ぬなんて!ぃひい!!」
「落ち着け、落ち着くんだ野口君!(バキッ!)」
「ぐふぅっ!!なんで殴るんだよ!?」
「なんかよく分かんないけど、落ち着けって意味だよ!」
「口で言え!!(バコッ!)」
「殴ったな!?良吉おじさんにも殴られたことないのに!!(ゴンッ!)」
「誰だよ!!(ゼンッ!)」

こうして小一時間も口論(殴り合い)した挙句、僕たちはとにかく少し落ち着こうという結論に達した。

「どうするんだよ、これ…」
「これっていう言い方はないだろ?」
「でも死んじゃったからにはただの肉塊、物体でしかないよ」
「なにマンガのちょっと冷たい系の、でも後の方で改心していい人になるキャラの登場直後みたいなセリフ吐いてるんだよ!」
「例えが分かりにくいよ!上田君はマンガオタなのか?」
「ガンプラオタに言われたくないよ」
「僕はガンダムマニアだ!」
「めんどくさいなぁ、もうケンカはやめようぜ」
「全くその通りだ。とにかく田所さんをどうする?」
「さっきから聞いてると、どうするってさ、まるでこの死体を隠すみたいな言い方してるけど…」
「その通りだよ」

え!?あっさり言い切った!

「何言ってるんだ!殺人だけでも立派な犯罪なのに、死体を隠す事だって立派な犯罪なんだぞ?」
「うん」
「うんって…分かっててそんなことするのか?」
「確かに犯罪だけど、見つからなければ捕まらないんだぜ?どっちのリスクを選ぶかなんてはっきりしてるじゃないか」

こいつのこういう妙に割り切った考え方がムカつく…

「そういうなら分かったよ、勝手にするがいい。僕は帰るよ」
「手伝ってくれないの?」
「手伝うわけないでしょうが!殺人幇助って言って、手伝うだけだって立派な犯罪なんだ。それだけじゃない、僕は帰ったら通報するつもりだ」
「なんだって!?通報?警察にか?」
「当たり前だろ?」
「冗談だろ?なんだかんだ言ってピザ屋に電話するくらいがオチなんだ」
「なんでピザ屋なんだよ。冷静に考えろよ。警察に決まってるだろ」
「そんな!それじゃ僕は捕まっちゃうじゃないか!」

そりゃそうだ、人を一人殺したんだからそれくらい当たり前のことだ。

「見逃してくれよ!」
「ダメだ!」
「仲間だろ?」
「違ーう!いつ仲間になったっていうんだ」
「ほら、何時間か一緒にいたろ?」

基準低っ!人類みな兄弟ですか!

「そんなのやだ、捕まっちゃうなんて…だって、だって僕…」
「何だよ」
「チュ、チューだってしてないんだ!」

は?

「セックスだって、そうだ、セックスだってしてないんだ!だってお金がないし、モテないから!」

なぜモテないの前にお金を持ってくるんだ!

「セックスする機会に恵まれなかった、セックスレスボーイなんだ!ノンセックスマンなんだ、セックス…」

セックス、セックスうるさい!

「(ガチャガチャ)」
「ちょっとちょっと、なんで急にズボン脱ぎ始めたの?」
「こうなったら田所さんでも構わない!」
「こらっ!それも犯罪だ!」
「とにかく済ませたいんだ!」
「やめろー!分かった、通報しないから!通報しないからやめるんだ!」
「…ほんと?」
「止むを得ない」
「そうか、最初からそう言ってくれればよかったんだ」
「(ドガッ!!)」
「な、何するんだ!」
「今のは怒りだ」
「…はい」

それから二人で相談し、学校の裏山の一本杉の根元に田所さんを埋めることにした。

「重い、重いよ上田君、人ってのはこんなに重いのか?」
「そんなの知るか…とりあえずあのコンビニを越えれば後は山を登るだけだ、頑張ろう…」

僕らは野口の家にあった一輪車(工事現場で土を運んだりするやつだ)で田所さんを運ぶことにした。ぱっと見かなり怪しい二人だが、現代人は他人のことなんか気にも留めないので大丈夫だ、と野口に説得され(ムカつく)、夕方の六時という帰宅ラッシュに人通りの多い道をなぜかあえて選んで(野口いわく、人間心理の逆をついているのだそうだ)、えっちらおっちら(古い表現だが)運んでいたわけである。

「あ…!」
「どうしたの、野口君?」
「あれ…」

なんてことだ、コンビニの前でたむろしてるのは、うちのクラスの島崎と最凶番長の真島じゃないか!ピーンチ!!

「ど、どうしよう!どうしよう!見つかったら捕まる!いや、恐喝される!」
「落ち着けって野口君!」
「そうだ、針だ、針になるんだ!針になった気持ちで存在を隠すんだ!」

だから落ち着けって!なんだよその精神論は!

「知らんぷりして前を通り過ぎるんだ、いいね?堂々と、怪しまれないように」
「わ、分かった…」

いよいよコンビニが近づいてきた。もう島崎と真島は目と鼻の先である。

「お、アホの上田と野グソ君だ」

やっぱり気づかれたか…くそ、島崎め…

「なんだよ、お前らいつの間に仲良くなったんだ?やっぱいじめられっこ同士だからかな。ねぇ、真島さん」
「きっとそうだ」
「ま、まぁそんなところさ!じゃあ僕たちは先を急いでいるから…」
「そう言わずにちょと遊んでけって。ガリガリ君食べる?」

予想通り引き止められた…あぁ、どうして学ラン着た高校生がガリガリ君を食べてると、どんな秀才でもバカに見えるんだろう…こいつらに関してはなおさらだよ…まぁ今は関係ないけど…

「いや、いいよ…本当に先を急いでるんだ」
「島崎、許してやれって」< br />「そっすね、別にこいつらといても面白くないし」

そう、その通りだよ、所詮僕らなんてただのモヤシとブタコンビだよ…だから早いとこ通してくれよ。

「じゃ、もう行っていいよ。学校でな」

やったー!奇跡だ、奇跡が起こった!怪しまれずに通り過ぎたぞ!バンザーイ、バカバンザーイ!フレーッシュ!

「…ちょっと待った」

え?真島君、まさか…

「お前らの持ってるそれ、もしかして一輪車か?」

しまった、気づかれた!…まぁそりゃ気づかれるサイズなんだけど…

「さっきからずっと気になっててさ」
「あ、ほんとだ、これうちの親父がガーデニングする時とかに使ってますよ」

結構本格的な庭作りしてんだな…いや、そんなことはどうでもいい、大変だ、どうしよう…

「俺さ、これで一回やってみたかったことがあんだよね」

え?なんだよなんだよ、何するつもりなんだ?

「あ、あれすか?」
「そうだ、あれだ」

なんてこった、島崎にも共通認識が…

「それ、俺たちに貸してくれ」
「え、そ、それは…」
「よし、OKだな?じゃ借りるぞ!」

わ、や、やめて!…こら野口!諦めてコンビニに行くな!
そんなに強く引っ張ったら死体が…田所さんの死体が…!

ドサッ。

ヤバい、落ちた、落ちてしまった…田所さんの足がはみ出してる…もう終わった…。

「おい上田、これなんだよ?」
「なんすかね?マネキンじゃないすか?」
「そ、そうだよ、マネキンだよ!」
「いや、違うな。マネキンをこんなとこまでこんな風に運んでくるわけねーだろ」

くそぅ、なんでこういう時だけ頭がよくなるんだ…

「おめーら、裏山でなんかしようと思ってんだろ?」

もうダメだ、ばれた…

「つまりこいつはなんなんですか?」
「こいつはな…」
「こいつは…?」
「ダッチワイフだ」

やったぁ!やっぱりバカだ!バカでよかった!サンセッートゥ!

「ダッチワイフで穴兄弟かよ、だからお前らはダメなんだよ」
「超ウケるわ~!さすが真島さんっす」

ムカつくけど、この際バレるよりはましだ。よかった…

「じゃあこれ借りてくな」

え?

「よし、島崎、出発進行!」
「アイアイサー!」

わぁ、乗ってちゃった!カッコ悪い!あの腰のはまり具合がカッコ悪い!せめて番長なら凛としてくれよ…
とにかく、一輪車は持ってかれたけど、死体はバレなかった…そして今コンビニでジャンプ立ち読みしてるあいつはいつか殺す!

ザクッ、ザクッ…

「まだかな…?」
「もうちょっとだ…しかし真島たちに見つかった時はどうしようかと思ったよ」
「…君何もしてないだろ?」

もうだいぶ穴も深くなった。そろそろ夜明けである。裏山から見渡せる早朝の空は、白みかけている。

「よし、埋めよう」
「うん」

僕らは二人で死体を持つと、穴の中へ投げ入れようとした。

と、その時である。

「フューイ!到着だぜ!やっぱ一輪車は最高の乗り物だな!」
「そっすね…でも真島さん、次は替わってくださいよ…」

なんてことだ、あの二人が再び!

~つづく~

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