○雑多なる森にて
「子供の時に」
彼は静かに語り出した。
「死体を隠すなら絶対にこの森だと思ってた」
彼の吸う強い煙草の匂いが鼻を突いた。
「やっぱり間違ってなかったな」
「子供の時?」
私は聞いた。
「この辺りは俺の地元だよ。高校に通う時にさっきの道を毎朝通ったもんだった」
「あんたが高校に行ってたってのが驚きだな」
「人には言うなよ」
夜が少しずつ忍び寄る森には、虫の声がこだまする。清浄な空気が二人の真っ黒なスーツを通り過ぎて、微かに肌を濡らすようだった。
「俺は人を殺す時には必ず」
彼が再び語り出す。
「こいつもかつては愛されていた子供だった時があったんだということを考える。それが一体どんな因果で殺される羽目になったんだと」
「愛されない子供だっているだろう」
「子供は愛されるもんさ、いつの時代も。そうでなきゃおかしい」
彼は吸い終えた煙草を無造作に放ると、革靴の底で火を揉み消した。もう吸殻がどこへ行ったのか分からなくなった。深い緑と闇で見えなくなった。
「あんたは愛された子供だったのか?」
彼が私に聞く。
「そう思うよ。少なくとも私はそうだったと思う。私も殺される時には、なぜ自分がこんな目に遭うんだと思うんだろうな」
「殺される時になってそいつがそいつの人生をどう振り返るかなんて大した問題じゃない。殺されないで済んだ選択が過去にはあったかもしれないが、大事なのは実際に殺されることが決定した現在があるってことだけだ」
「確かにそうだ。そう思うよ」
彼は懐から拳銃を取り出した。それは黒く重く、いかにも不吉な物体に見えた。
「じゃあ頼んだ」
彼は私にそれを手渡した。受け取ると、私は銃口を彼の心臓の辺りに押し当て、静かに引き金を引いた。
~おわり~