火星での生活・1

ある日、僕のクラスに転校生がやってきた。

「さい…火星から来ました、野口です」

えぇ!今「さい」って…

「皆、さいた…いや、火星から来た野口君だ。仲良くするように」

先生!今「さいた」って…

「こんな時期に転校生なんて、と皆も疑問に思うだろうが、野口君の家庭の事情でな」
「家庭、というよりも、宇宙戦争が起こったせいで、火星から疎開してきたんです。でも僕は地球の某映画のように侵略したりはしませんけどね。アハハハハハ!」
「野口~、お前冗談きついぞ!アハハハハハ!」

いやいや、笑えないから!クラス中どっぴきだよ!何だよ、この猿芝居!

「そんなわけで、野口ははるばる埼玉からやって来たわけだ。慣れない環境…あ、今先生埼玉って言ったけど、火星の間違いな。先生かんじゃったんだ」
「もう、先生ったら~!アフフフフ!」

笑い方キモっ!絶対あいつ埼玉から来てるよ!どんな事情か知らないけどさ。

「だから、決してイジメにあって止むなく転校して来たわけじゃないぞ。あくまで、宇宙戦争のせいだ。いいな?」

あ、事情分かっちゃった!

「でも皆さん、安心してください。僕は地球の某映画のように侵略したりはしませんから」
「野口~、お前冗談きついぞ!アフフフフフ!」
「アフフフフフ!」

二人してその笑い方やめなよ!特にその冗談面白くないから!あ~ぁ、クラス委員長の田所さん怒って帰っちゃった!

「そんなこんなで、皆、野口のことをよろしくな。あだ名なんか考えてやってくれ。野口、とりあえず地球名で呼んでいいのか?」

地球名?

「そうですね、僕の地球名、野口健二で呼んでもらった方が、地球の皆さんも親しみやすいでしょう。でも一応僕の火星名も知っておいていただきたい。なにせ僕の本名ですからね」

火星名?

「そうだな。皆、野口の本名はノグチ・ジュピター・ケンジだ。そっちで呼んでもいいぞ」

ほぼ変化なし!なにその間違ったアイドルみたいな名前!しかもジュピターって木星じゃないですか!?

「決して野グソなどというあだ名は付けないように。いいな?」

うわぁ~、絶対そう呼ばれてイジメられてたんだ…

「じゃあ皆、野グソに質問は?」

おいっ!

「はい、島崎」
「野グソ君は埼玉でどんな音楽を聴いてたんですか?」

ほら定着した~。

「あ、あの…まず僕は野グソじゃないからね。それから埼玉じゃなくて火星だから!なに埼玉って。そんな政令指定都市の名前が平仮名でさいたま市だなんて所、知らないから!」

墓穴掘っちゃった!

「ご、ごほん、え~、僕は向こうでは洋楽を聴いてました」

…火星における洋楽って…どこを指してるんだろう?他の惑星ってこと?

「特にホッチリが一番好きです」

…ホッチリ?

「あ、失敬、こちらではレッチリと略すんでしたね。レッドホットチリペッパーズです」

ダサっ!火星人ダサっ!ホッチリって!居酒屋のメニューにありそうだよ!

「ホッチリって!アフフフフフ!」

先生!だからその笑い方やめてよ!

「アフフフフフ!」

なんで島崎もその笑い方するんだよ!キモいよ!

「アフフフフフ!」

あ!この声は!クラス委員長の田所さんだ!気になって戻ってきてしかも廊下で笑ってる!キモっ!

「他に質問は?…お、真島、なんだ?」

わぁ…クラスで一番怖い、番長格の真島君だ…野グソ君、いちゃもんとか付けられないといいけど…

「野口は火星にいたって言ってるけど、地球の空気で生きていけんのか?」

うぉう!信じてる!頭の悪さも番長級!

「大丈夫、心配ないよ。こっちに来る時に特製の機械をもらったから」

あ!あれ見たことある!喘息の人がシューパコパコってやるやつだ!

「すげー!それがあれば、逆に俺も火星で暮らしたりできるか?」
「もちろんだとも!」
「おう!心の友よ!さっさと寄こせ!」
「お安い御用さ!」

本人たちも気づかぬうちに主従関係ができた!

「俺、実はさ、宇宙飛行士になるのが夢でさ…」

あ、バカの真島が唐突に夢を語り始めた…

「宇宙飛行士になって、人類で初めて火星に降り立ちたいんだ。でも俺、バカだろ?だからその夢、諦めかけてたんだ。でもこいつのおかげで、また夢に向かって頑張れそうだよ!」

どういうプロセスだー!!どっちにしろもっと勉強しろ!

「素晴らしい!素晴らしいぞ、真島!」

先生!正気に戻って!

「凄い、偉いよ、真島さん!」

こらー、野口!同級生にさん付けするな!またイジメられるぞ!それからこれ君の紹介の場だったよね!?いいの!?

「(ガラガラ)カッコいい、カッコいいわ、真島君!この蛆虫みたいな野グソ野郎でも、何かの役に立つのね!」

田所さん、辛辣!そして正気に戻れ!

「まっじーま、まっじーま!」

島崎ー!正気に戻れ!

「まっじーま、まっじーま!」

クラスの皆~!正気に戻れ!そして野口君を思い出せ!

「よしっ!これで朝のHRを終わりにする!」

終わったー!?

「とりあえず野口、今は余った机が無いから、上田と共用してくれ」

えぇ!?先生、でもイスは?イスはさすがに…

「二人で半分コだ」

えぇー!?…はぁ、これでこのクラスのイジメられっ子は二人目……。

~続く~

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