心の繋がり。

どうも、須貝です。

あと数時間で劇場入りしますが、完全に目が覚めてしまっています。早く寝なきゃを押しのけての更新です。
でも特に今回の舞台と関係ないことを書きます。

目を合わせただけで、その人と心が繋がっていると感じるような、そういう経験ってあります?
もしくは心の繋がりを求めたくなるような。
もしくは相手もそれを求めているような。

恋愛が生まれるとかそういうことではなく、波長、の話に近い気がします。

僕はあります。勘違いかもしれないけどね。

初対面の人とでも長年の友人とでもそういう瞬間が訪れることがあって、その時間は例え数秒でも数日分の濃さを持って心に残るものです。そうやって確かめ合えれば、その後何があっても繋がっていられる、世界に一人じゃない、どこかでその人が過ごしていることを感じることが出来るような、もちろん実際にはそんなことはないけど、そういうこと。

まだ付き合いの浅い人とのそういう瞬間や、長い付き合いの人とのそういう瞬間も印象深いですが、もう二度と会わないであろう初対面の人との時間というものも、いつまでもいつまでも残り続けるもののようです。

2008年の3月末から4月頭にかけて、僕は初めての海外旅行でフランスに行きました。正確には旅行ではなく向こうの演劇祭に参加しに行ったんですが、その帰り、僕らが滞在していたブザンソンという町からリヨンへと至るTGVの車内で乗り合わせた女性のことは、多分一生忘れられない気がします。

彼女はフランスに語学留学しに来ていたアメリカ人留学生で、一時的な帰郷の途に就いていました。彼女とその友達は僕らの隣に乗り合わせた男女2人ずつの4人組で、僕の正面にはれお君が座っていましたが、疲れて眠ってしまっていました。

最初に話しかけてきてくれたのは彼女の方だった、ように思います。覚えていませんけど、僕の性格を考えれば多分僕からは話しかけなかっただろうと思います。旅行かと聞かれたので、役者であること、日本から来たこと、演劇祭に参加していたことなどを話し、彼らの身の上もその時に聞きました。彼女はショートカットの金髪で、鼻の右側に小さな丸い銀色のピアスを付けていて、18歳という年齢を告げられても信じられないくらい大人びた人でした。その時僕は23歳だったんですけど、同い年かそれ以上にしか思えなかった。

彼女の連れの女性が作ったという大ぶりのチョコチップクッキーをもらって、お返しに僕が日本から持って来たチョコレートを彼らに振る舞いました。その時はフランスに一週間ほど滞在していたんですが、多分日本のものが食べたくなるだろうと思って、レトルトの味噌汁や日本のお菓子を持って行っていたんですね。珍しい味だけど美味しい、なんて言いながら食べていましたけど、確か塩チョコみたいなものだったので、日本のチョコレートはしょっぱいと思われたかもしれません。

金髪の彼女は僕の隣に座っていたので、通路を隔てて向こう側に座っていた3人よりもたくさん話をしました。まずは好きな映画の話。『ビッグ・フィッシュ』や『エターナル・サンシャイン』や『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』の話をして、好きな俳優の話とか、日本の俳優で知っている人はいるかとか、確かそんな話もしたような気がします。

その後彼女は僕が読んでいた本に興味を示したので、それが『フェルマーの最終定理』という本で、どういう内容なのかとか、将来これを戯曲にしたいとか話しましたが、彼女にとっては内容よりも縦書きの本が珍しかったようで、日本語には縦書きも横書きもあることや、3種類の文字があることを教えました。

そうしたら彼女は子供が使う自由帳のようなもの(日本にもあるような、真っ白な画用紙のページの)を取り出して、それに何でもいいから日本の文字を書いてくれと頼んできました。とりあえず挨拶をいくつか書いて、その下に読み方と、読む方向を聞かれたので矢印を書いてあげました。読んでくれと言われたので読んであげ、さらに本も朗読して欲しいというので読んであげました。

その後は彼女が描いた絵を見せてもらったり、それが僕の友人の(と彼女には言いましたけど実際はその時別れたばかりだった女性の)絵に似ているとか、ぽつりぽつりとそんな話をして、リヨンに着いて別れました。

ホームに降り立ったらもう、お互い別々の方向に向かって行ったので後姿を見ることもなく別れてしまいましたが、停車して、車内で別れを告げる時、僕は、

「この人と僕は二度と会わないだろうけど、もしかしたら、言葉が不自由なく通じ合ったり文化に隔たりがなかったりする人よりももっとずっと強く、繋がれるということもあるのかもしれない」

と思って、

「出会い方が違っていれば友達になれていたのだろうか?いやきっとなれていたはずだ」

と思って、

「この出会いは一生忘れないだろうな」

と思ったのでした。貴重な経験でした。

最後に目が合った彼女がなんとなく、同じことを考えているような気がして、そんなことはないのかもしれないけど、多分そうだったんですよ。僕と彼女にしか分からないことですけどね。

気持ちを探り合って、隠して、晒け出して、汲んで、ときにないがしろにして、そんな風に接しているばかりでもなく、ただ目が合ったその瞬間に全てが察し合えるような、そういう人間的な営みを大事にしたいなーって、思います。

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