鳥肌の立つ映像~「天国と地獄」~

どうも、二月突入の須貝です。世の中は節分節分と浮かれ放題ですが(そうか?)、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

さて、本当に一つ言わせていただきたいんですが、ヒッチコックなんかより黒澤明の方が百万倍ぐらい凄いぞ!!

唐突ですいません。しかしですね、どうもヒッチコックの作品って一体何が面白いのか分かりません。サスペンスも、冗談で撮ってるつもりなのか?実はコメディーなのか?などと思う瞬間があります。
いや、面白いと思う部分もあるんですけどね。ただそこまで言うほどか?と思ったりして、それを確認するために借りて観たりするんですが、やはり…。選んでいるのがあまり面白くないやつなんだろうか。

で、冒頭の黒澤監督の話に戻っていくわけですが、皆さん、どのくらいご覧になったことがありますでしょうか。

○自分的黒澤作品ベスト3

1.蜘蛛巣城

2.悪い奴ほどよく眠る

3.天国と地獄

…「七人の侍」も「生きる」も「羅生門」も「椿三十郎」も「用心棒」も入っていません。いや、それらももちろん好きなんですが、やはりベストはこれかなと。この三作品、本当に救いがない。

黒澤作品の凄さというのは、「“救いのなさ”かつ“エンターテイメント”」であることだと思うんですよね。それが作品の重厚さにつながっている気が(それだけではないが)します。「リアル」ということにここまで真正面から向き合える人ってそうはいない。ヒッチコックのなんかどこまでも「映画」で「お芝居」だと僕は思うのです。「現実に救いなんかねーんだよ」、というか「現実ってのは簡単に割り切れないんだよ」とでもいった(言葉にすると陳腐に聞こえてしまいますが)考えを感じます。

「救いがない」という観念よりは、「不条理さ」のようなものが感覚としては近いのかもしれません。「生きる」で再び日常の役所のシーンに帰る残酷さ、「七人の侍」の農民の強かさなんかも、「不条理」とはまた違いますが、ヒーローなどいない現実世界を描き出しているというか。

「蜘蛛巣城」は前にも紹介したかもしれませんが、「マクベス」の舞台を戦国の日本に置き換えた翻案作品です。「天国と地獄」も翻案もので、原作はエド・マクベインの「キングの身代金」という小説ですね。87分署シリーズです(余談ですが、火曜サスペンスでも87分署シリーズの翻案はやってましたよね。今を時めく渡辺謙さんが主役で。あれも好きでした)。

誘拐というオーソドックスなテーマを扱いつつも斬新な展開と手法で観ていて全く飽きません。とかくステレオタイプになりがちなものですが、誘拐モノは。身代金の受け渡し方法がこの映画では有名ですが、やはりその発想の面白さにその要因があるのかもしれませんね。

が、この映画の見所はそこだけではありません。黒澤監督のお家芸、人間ドラマですがな。「嫌な奴」とか「悪い奴」とかを描かせたら彼の右に出るものはいません。そしてそれをリアルに感ずる説得力。うーむ。さらに、「外面は善人」という人間の描き方。彼の作品にははっきり言って「善人」は出てきません。そういう人はいたとしても大抵死にます。もう心にはしこりしか残りませんが、かと言って爽快感がないかというとそうでもありません。バランスがいいんでしょうか。小気味のよさとでもいうか。

この映画の凄さというのはちょっと簡単には語りきれないんですが、僕が最も凄いと思ったのは、人々が笑うシーン。あまりにも自然で、美しすぎて、鳥肌が立ちました。緊迫する捜査会議でそれぞれが報告を行う、その際の一言の冗談で室内には捜査員たちの笑いがどっと湧く。このシーン一つでいかに黒澤映画が演出的に優れているか分かります。さらに記者たちを前に刑事たちが捜査協力を願い出るシーン。群れ集まる記者とそれを前にする刑事。一人の記者の冗談に笑う記者たちと刑事たち。もう本当にね、「スクリーンの中でこれほどまでに人が生きている」と実感することはないですよ。

彼の群集やその他大勢の描き方は素晴らしいと思います。きっと手を抜いていないんでしょう。

三船敏郎さんの存在感、仲代達矢さんの飄々とした刑事役、そして若き日の山崎努さんの知的で残酷な犯人を演じる姿、この一人一人の役者さんの魅力を存分に引き出した(もちろん役者陣も名優揃いなわけだから)映画、「天国と地獄」、本当に面白いです。

次は「赤ひげ」を観ようかな。

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