どこにもいない隣人~ジョニー編~


 ジョニーは、ボクサーであるらしい。

 そう断定する理由は特になかったが、ある時彼が履いていたスニーカーが、ハイカットなどというレベルではなく、完全にボクシングシューズだったため(足の甲までも隠して保護する、あれだ。リングシューズとも呼ぶのかもしれない)、きっとそうなのだろうと勝手に決め付けてしまったのである。

 冷静に考えてみればボクシングをやっている者が普段もボクシングシューズを履いているわけはないだのだ。単にファッションだったとすればあまりにも短絡的な勘違いだが、彼がボクサーであると一度考えてしまうと、もうそうとしか思えなくなるのである。ジョニーとはつまりそういう男なのである。

 そもそもジョニーという名前ですら、僕が勝手に付けたものである。もちろん彼は日本人だったし、誰かにそのあだ名で呼ばれているのを聞いたわけでもない。見た目のイメージというものは強力だ、この名前もまた、一度そうと決めてしまうともう他の名前が思い付かない。

 ジョニーは中野にあるホームセンター、島忠で働いていた。僕が彼を知ったのはこの島忠でである。都心にあるホームセンターというのが珍しいためか、ここには曜日を問わずたくさんの人が訪れる。

 この島忠のスタッフというのは、黄色いユニフォームに身を包んでいるため混み合う店内でもよく目立つが、例えジョニーがこの制服を着ていようがいまいが、どんなに混み合う店内であろうが関係なく、彼は目立つに違いない。なぜなら彼の髪型はリーゼントだからである。

 「ちょっとリーゼントっぽくなってるよ」、などと風で髪が乱れた友達に声をかける程度のリーゼントではない。不良マンガに出てくるリーゼントを思い浮かべていただければ、それが大体ジョニーの髪型である。
 その髪型にボクシングシューズ、色落ちした細いジーンズを履いて颯爽と店内を駆ける姿は、もうボクサー以外の何者でもない。

 しかし、颯爽と駆けはするが、ジョニーの勤務態度は決して真面目ではない。いや、本人は真面目なのかもしれないが、とても気だるそうなため、そうは見えない。

 ジョニーは決して逞しくはない。長身で細身、減量を失敗したのではないかと心配になるが、そもそもボクサーと呼ばれる人たちを思い浮かべてみると、無駄な筋肉を削ぎ落とした引き締まった肉体をしているものである。だから僕の思いも杞憂に違いないのだろうが、それにしても彼は細い。吹けば飛ぶようだ。

 その細身の彼がリーゼントになどしているものだから、どこかドラマに出てくるベタなヤクザの使いっ走りに似ていなくもない。さらに彼は垂れ目である。最早Vシネマに出てくるチンピラにしか見えない。

 ジョニーには、モモコという恋人がいる。

 この女性がまた、ケバい。金色に染めた髪に濃い目の化粧、ピンクで統一された色調の服を着て、白いミニスカートを履いている。顔は丸顔で、この「モモコ」という名前もまた、見た目のイメージで勝手に僕が付けたものである。最早他の名前は思い付かない。

 このモモコという女がまた、如何にもVシネマに出てきそうなチンピラの彼女といった風なのだ。派手なのに、どこか幸の薄そうな顔をしている。六畳一間の古いアパートの窓際で洗濯物を干すのが、如何にも似合いそうな女なのである。

 僕がこの二人が一緒にいるのを見たのはたった一度きりだが、その時ジョニーはティアードロップ型のサングラスをしていた。「西部警察」で渡さんが掛けていた、あれである。渡さんが掛ければワイルドで済むが、ジョニーが掛けると益々Vシネ臭が増す。

 ここまで書いてもう一度冷静に考えてみる。ジョニーはボクサーであるらしいが、どうやらチンピラでもあるらしい。つまり、ボクサーとして世に出る夢は持っているが、生来の気質から、悪い仲間との繋がりも出来てしまっている。そんな男なのかもしれない。

 そのジョニーが、暫く前に島忠から消えた。今頃どこかでボクシングをしているかも知れないし、本格的に極道の道に足を踏み入れたのかもしれない。どちらにしろ、僕にはもう分からない。

 ただ一つ言えるのは、モモコを泣かせるようなことだけは、あまりにもイメージ通りなのでやめて欲しいということだけである。

~つづく~

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