美人の書き方。


どうも、須貝です。

物を書いていて難しいなと思うことの一つに、美人の表現というものがある気がします。

これは美男美女の両方に関して言えると思うのですが、作家さんというのは実に上手く表現するものだなぁといつも読んでいて勉強になります。

ただ「美人」だとか「可愛い」とかいうだけではもちろん物足りません。かと言って良い所をあまり挙げ連ね過ぎると、なんだか興醒めです。

例えば、背が高いとか髪が黒くて長く美しいだとか、鼻筋が通っていて高いだとか目がぱっちりとしていて黒目がちだとか、唇が美しいだとか眉がキリリとしているだとか歯並びがいいだとかそんなことをいちいち一つずつ全てあげつらって説明してしまうのは、野暮ったいわけですね。
女優の誰々に似ている、などという説明も、野暮なわけです。

それは極端な例だとして、美人であるということを説明しようとすればするほど、美人からは程遠くなっていくのです。その時は納得しても、後で見返すと何となく、その人を美しく思えない自分がいるわけです。

で、思うに、美男美女という奴は、説明の必要がないんじゃないかと思ったのです。なぜなら、美男美女に関してはそれぞれに好みがあって、文章なんだからそれぞれが思い描く美男美女に物語を生きてもらえればそれが一番いいわけです。

「彼女は、美しかった」と一言あれば、大抵の人たちが自分がそうと思う美人を思い浮かべるでしょう。「彼は長身の美男子で、健康的に日焼けした肌の色が印象的だった」と言えば、ある人はもこみち君を想像するかもしれないし、ある人は羽賀研二を思い浮かべるかもしれないし(結局どうなったんだろう、あの人)、ある人は加山雄三さんを思い浮かべるかもしれないのです。あるいはその誰にも似ない自分の思い描く美男像を。

そこには、我々はケチを付ける必要はないわけです。最低限どんな美人かが分かれば、あるいは充分なのかもしれません。

今、宮尾登美子さんの小説、『蔵』を読み直しています。随分前に毎日新聞で連載していたのを読んでいて、母が小説でも買っていたのですが、この間ブック・オフでなんと上下巻合わせて百円で売っていたので、僕も買ってしまったのです。価格破壊どころか価格崩壊ですね。

その中の一節に、主人公の盲目の少女、烈の母親、賀穂に関して記述した部分があるので、ちょっと抜粋してみます。

『…むら(烈の祖母)はその紫のリボンの娘を一瞥したとき、まあ、何と美しい、と目のさめるような気分がした。
越後美人は色白で、肌よし気よし、おとなしく、という歌のとおり、抜けるように明るい肌に鼻すじ通り目もと涼しく、まるで美人画から抜け出したような面差しの娘であった。…』

むらは彼女を息子の嫁にするために、自ら出向いてまで彼女を口説くのですが、この時にむら自身が賀穂に一目惚れしてしまっているんですね。

僕は文に言う歌は知りませんが、これだけのシンプルな記述でも、不思議と賀穂の美しさという物が自ずと浮かび上がってくるのです。紫のリボンをした色白の娘、その色のコントラスト、歌に歌われるような、美人画に描かれるような、そんな完璧な美人。宮尾さんの柔らかな筆致で描き出されるその姿が、生き生きと物語に華を添えます。

完璧な美人であるという説明が不足することなく、かつ限定し過ぎずに私たちに想像の余地を与える、そんな一節だと僕は思います。

日本の作家さんはそういう表現が上手だと僕は思うのですが、あるいはこれは国民性や共通の価値観というもののせいかもしれません。何を以って美しいとするかは、国によって相当違いますからね。

逆を言えば、醜女醜男を表現するためには、これでもかとばかりに説明しまくればいいのではないでしょうか。

例えば…。
「まず目に付くのは、鼻だ。その鼻は顔の面積の約三分の一を占めているのではないかと思えるほどに、デカい。勿論そんなわけはないのだが、そう思わせるほどにデカい。その下にこれまた分厚い唇が垂れ下がっていて、細く卑屈そうに吊り上った鋭い目が二つ、鼻の上の方に引っ付いている。彼の顔はまるで鼻を中心に構成されているみたいだった」

まぁあくまで例えばなんで良い悪いは置いておいて、自分の顔に関して書いてみました。これを読んで美男子を想像する人は、よもやいないはずです。

小説原作や漫画原作の映画やドラマは、やはり難しいですよね。登場人物がある一定の個人に限定されてしまうわけですから、そこに違和感を感じるだけで観る気が削がれてしまう。漫画は絵なのである程度似た人を配すればいいかもしれませんが(もちろんそれだけではダメなんですが)、小説はそうはいきません。

そう考えると、キャスティングというのは難しそうですが、面白そうなお仕事ですね。

『ピューと吹くジャガー』の実写版で、ジャガーさん役を要潤さんがすると知った時、彼が一体どこに向かっていくのか人事ながら心配になりましたが、キャスティング的にはありかもしれないと思った今日この頃です。

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