○いつか返して
ある朝、彼女が部屋を出て行った。
僕が貸していた本やCDはきちんと並べて置いてある。でも、一番気に入っていた本がない。
間違って持って行ったのか、確信犯的に持って行ったのか。分からないけどとにかくなかった。
気に入っていた本だったので、それから暫くしてもう一度買った。
それからまた暫くして彼女がその本を返しに来た。もう新しいのを買ったからいらないと言ったら、じゃあその新しい方をちょうだいと言われた。
古い方は確かに僕の物で愛着もあったから、僕は新しい方を彼女にあげた。
何も思わなかったわけじゃない。でもそれは、何かはっきりと名前を付けられるほど強い感情じゃなかった。ただただ面倒だった。
ある時僕にはまた恋人がいて、その人に同じ本を貸した。そうしたら、本の間からレシートが出てきたよと言って笑われた。
コンビニのレシート。アイスとジュースとパンが二個。
僕のじゃない。きっと彼女だ。
僕は、コンビニのレシートをしおり代わりに挟む女なんて嫌いだ。
それでも、そのレシートを見た時に初めて、もう彼女はいないんだと思った。初めて、悲しいと思った。
レシートはすぐ捨てた。
その本は、今でも僕のお気に入りだ。
~おわり~