極めて短編集(9)


○いつか返して

ある朝、彼女が部屋を出て行った。

僕が貸していた本やCDはきちんと並べて置いてある。でも、一番気に入っていた本がない。

間違って持って行ったのか、確信犯的に持って行ったのか。分からないけどとにかくなかった。

気に入っていた本だったので、それから暫くしてもう一度買った。

それからまた暫くして彼女がその本を返しに来た。もう新しいのを買ったからいらないと言ったら、じゃあその新しい方をちょうだいと言われた。

古い方は確かに僕の物で愛着もあったから、僕は新しい方を彼女にあげた。

何も思わなかったわけじゃない。でもそれは、何かはっきりと名前を付けられるほど強い感情じゃなかった。ただただ面倒だった。

ある時僕にはまた恋人がいて、その人に同じ本を貸した。そうしたら、本の間からレシートが出てきたよと言って笑われた。

コンビニのレシート。アイスとジュースとパンが二個。

僕のじゃない。きっと彼女だ。

僕は、コンビニのレシートをしおり代わりに挟む女なんて嫌いだ。

それでも、そのレシートを見た時に初めて、もう彼女はいないんだと思った。初めて、悲しいと思った。

レシートはすぐ捨てた。

その本は、今でも僕のお気に入りだ。

~おわり~

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