極めて短編集(11)


○お葬式

「葬式だげでもまどもにあげらっちぇいがったず」

自分の中の、汚い、醜い感情以外は、全て偽物だと思う時がある。

「兄ちゃんさ感謝しろよ。おめがふらふらしてっがら夕子さんさも迷惑かげっだったんだず。夕子さんおめさまだ毎月金おぐってだったんだべ?兄ちゃんさ感謝しろよ。この、葬式の金全部出してけっちぇやんだべ?」

叔父の言う通りだ。葬儀全体の費用を思えば、私にとってはなけなしの金でも、出しているなんて恥ずかしくて言えない。そう思って私は、反論しようと開いた口をまた閉じた。

「これがらおめが働いて返してがんないんだがらな。もう兄ちゃんさ面倒かげんなよ」

叔父には、父が亡くなった時に随分世話になった。兄が大学へ行く時にも、いくらか借金をした。私が高校を出て突然東京へ行った時も、叔父には随分不義理をした。

「孫の顔ぐらい夕子さんさ見しぇてやってもいがったべした。いい歳してまだ一人でふらふらしででよ、おめ何の恨みあんなや。夕子さんさ苦労だけさしておめ一人だけいい気でよ、もう帰って来いず。何にもなんねごどばっがして、もういい加減にしろず!」

叔父の声が荒くなる。
喪主として親戚に挨拶して回っていた兄が、慌てて止めに来る。

「どうせなんにもしねんだがらおめは来ねっきゃいがったんだ」

叔父の、怒りに任せた呟きが聞こえる。

自分の中の、汚い、醜い感情以外は、全て偽物だと思う時がある。
自分の中のそれらは、決して飾らない分、真実で、信用出来る。例えそれが目を覆いたくなるほど醜悪でも、真実である分信頼出来る。

お母さん。

僕はなんにも、なんにも出来ませんでした。

なんにも、なんにも、なんにも。なーんにも出来ませんでした。

あなたを愛したという僕の記憶も、全て偽物だ。横たわるあなたを目の前にして流れるこの涙も、全部偽物だ。

僕の中のおよそ美しいと、尊いと思われるこれらの感情全て、偽物だ。取り繕って作り上げた、外面用の偽物だ。

お母さん。だから僕は、場所を変えてもなんにも出来ませんでした。
やっぱり、駄目な人間でした。
僕は自分が恥ずかしい。

自分の中の、汚い、醜い感情以外、全て偽物だと思う時がある。

~おわり~

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