2.
あなたの想うあの人が私なら良かったのに。
でもあなたの想うあの人が私になることは決してない。
今日私はあなたの隣で、あなたが想うあの人についてあなたが話すのをずっと聞いていた。あなたの言葉だったらいつまでだって聞いていられる。例えそれが私ではない、あなたの好きなあの人についての言葉でも。
辛いのは帰り道。あぁそうか、あなたには私じゃないのねと一歩踏み締める度に思い知る。家に帰りたくない。コンビニに寄って時間を潰して、今度は公園に行って時間を潰す。近寄ってきたホームレスから逃れるようにブランコを後にして、小さなアパートの重い扉を開ける。真っ白で肌寒い蛍光灯。あなたが好き。あなたのことが、死ぬほど大好き。
あなたの愛じゃなかったら他の愛は必要ない。一つもいらない。あなた以外の人からは嫌われたっていい。世界中を敵に回したっていい。
でも、例え私が六十億を敵に回しても、あなたには愛されないのね。
あなたを追ってあなたの行く高校へ行き、あなたを追ってあなたの行く大学へ行って、私はあなたの友達に昇格して、それでも私が本当に手に入れたかったものは、あなたとの距離が縮まれば縮まるほど遠くなっていく。
こんなことならあなたとなんて親しくならなければ良かった。あなたを知れば知るほど、あなたの中に私が入り込む余地がないということが痛いほど分かってしまうから。
でももう、知ってしまったから、あなたが隣にいる時間を。その時間がキラキラ輝いていることを。だからもうきっと、あなたと離れることは無理なんだ。
あなただっていい加減、私があなたを好きなんだってことに気付いてくれたっていいだろうに。もう気付いているんだろうか。だとしたら意地悪い。
いえ、きっと気付いてる。彼だってきっと複雑なんだ。そう分かっていても、あなたに恨み言の一つも言いたくなる。
きっとそろそろ、あなたのいない生活のことを考え始めなければいけないのね。