ファーファーファーファー、ファーラウェイ(3)


3.

今日、あなたを見かけた。

もっとおじさんになっているかと思ったのに、案外変わってなくてびっくりした。だから一目見てすぐあなただって分かった。

あなたも私に気付いたでしょ?でも声を掛けてくれなくて良かった。あなたと話したら、またあなたが私の生活の中心になってしまいそうで怖かった。物理的な距離って強力で、それがなかったら私はあなたのせいでダメになっていたかもしれなかった。それほどまでに強かった感情も、今ではちゃんと昔の事として振り返ることが出来る。

遠くにいるはずのあなたを、まさかこんな所で見掛けるなんて思わなかった。

でも別に驚かなかったの。いつも心の中で私は、街を歩く度にあなたを探していたような気がする。

もう多分これは、恋ではないんだと思う。恋なのかもしれないけど、桜の木の下のあなたに焦がれたあの頃とも、あなたと友達になってしまったことを悔いたあの頃とも、違うものなんだ。

十代を終えて二十代を過ぎて、もうあの頃の私たちには想像も付かない年齢になっても、私の中に変わらずに眠り続ける感情があることが驚きだったし嬉しくもあった。

私はやっぱり、あなたが好きだ。

あなたが遠く離れても。
どんなにどんなに遠く離れても。

それが分かって私は、涙が出た。

ゆるやかなカーブを描いて伸びる明治通りに、ぱっと灯がともる。
小雨が静かに行き交う傘を濡らす。
時間が止まってまた動き出すその間に、私とあなたの間の何かに終りが訪れた。

そんな気がした。

私はあなたに恋したあの頃の私をバカにしないし葬りもしない。基本的に私は今もやっぱり、あなたをもっと毎日好きだった頃の私と同じ。同じなのよ。

来月東京を離れるの。今度は私からあなたに距離を取るね。きっともう、本当に二度と出会うことはないだろうけど、私はいつもあなたの味方よ。

さよなら。
ありがと。

大好き。
大好き。
あなたが大好き。

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