僕がジェフリー・アーチャーの作品に始めて触れたのは、確か「百万ドルを取り返せ!」の映画だったと思います。
大富豪の所有する油田の株を買ったら、それがなんと幽霊油田で大損。損した四人の男たちが、全員が損した額の合計である百万ドルを取り返そうとする話です。その四人が自分の職業とかをうまく利用して騙し取るわけですね、お金を。確か大学教授と画商と没落貴族と…あと一人が思い出せませんが、とにかく面白かった。その後本を読んでまたはまりまして。この作者も、読み始めたら止まらない、意外な展開にうなってしまう、非常によい作家です。
さて、この「百万ドルを取り返せ!」は彼の処女作なんですが、この作家、何がすごいってまた短編がうまい。短編がうまい作家ってなかなかいないもんです。アメリカとかだとサリンジャーの「ナインストーリーズ」とかは珠玉の短編集だし、同じイギリスの現代作家では、グレアム・グリーンの短編も素晴らしいのですが(さらにさかのぼればドイルも短編の名手ですね)、このアーチャーも身の詰まった、痛快な物語を紡ぎます。
短編集としては二作目となる「十二の意外な結末」ですが、なんと十二本中十本が実話を基にして書いているとのこと。人生ってあれですね。サスペンスもあれば、ユーモアあふれる話もあるし、感動のお話もあります。さっぱりとしてくどくなく、読後感がたまらなくよい短編集でした。
「完全殺人」なんてうまいですね。見事に読者の注意点をそらし、意外な結末に持っていく。最後まで読んで初めて「完全殺人」の意味を、僕たちは知るわけです。
「本物じゃない」なんてトホホな話ですが、虚栄心に関しては身につまされて思うことが…そんな部分を突かれたようで、耳が痛い話でした。
最後を飾る「クリスティーナ・ローゼンタール」はとても切ない話で、一編の映画にできそうなお話です。このタイトルがまたいい。このタイトルと、父親が息子からの手紙を読む、というその状況に、また作家のストーリーテリングのうまさを感じます。
「十二の意外な結末」という表題だけあって、小気味のいい作品集ですな。それだけにあまり内容を解説できないけど…「掘り出し物」や「ブルフロッグ大佐」、「ア・ラ・カルト」なんかは、結末云々以外に、小説として楽しめると思います。
もしお時間があれば是非。