ある日、僕のクラスに転校生がやってきた。
「さい…火星から来ました、野口です」
えぇ!今「さい」って…
「皆、さいた…いや、火星から来た野口君だ。仲良くするように」
先生!今「さいた」って…
「こんな時期に転校生なんて、と皆も疑問に思うだろうが、野口君の家庭の事情でな」
「家庭、というよりも、宇宙戦争が起こったせいで、火星から疎開してきたんです。でも僕は地球の某映画のように侵略したりはしませんけどね。アハハハハハ!」
「野口~、お前冗談きついぞ!アハハハハハ!」
いやいや、笑えないから!クラス中どっぴきだよ!何だよ、この猿芝居!
「そんなわけで、野口ははるばる埼玉からやって来たわけだ。慣れない環境…あ、今先生埼玉って言ったけど、火星の間違いな。先生かんじゃったんだ」
「もう、先生ったら~!アフフフフ!」
笑い方キモっ!絶対あいつ埼玉から来てるよ!どんな事情か知らないけどさ。
「だから、決してイジメにあって止むなく転校して来たわけじゃないぞ。あくまで、宇宙戦争のせいだ。いいな?」
あ、事情分かっちゃった!
「でも皆さん、安心してください。僕は地球の某映画のように侵略したりはしませんから」
「野口~、お前冗談きついぞ!アフフフフフ!」
「アフフフフフ!」
二人してその笑い方やめなよ!特にその冗談面白くないから!あ~ぁ、クラス委員長の田所さん怒って帰っちゃった!
「そんなこんなで、皆、野口のことをよろしくな。あだ名なんか考えてやってくれ。野口、とりあえず地球名で呼んでいいのか?」
地球名?
「そうですね、僕の地球名、野口健二で呼んでもらった方が、地球の皆さんも親しみやすいでしょう。でも一応僕の火星名も知っておいていただきたい。なにせ僕の本名ですからね」
火星名?
「そうだな。皆、野口の本名はノグチ・ジュピター・ケンジだ。そっちで呼んでもいいぞ」
ほぼ変化なし!なにその間違ったアイドルみたいな名前!しかもジュピターって木星じゃないですか!?
「決して野グソなどというあだ名は付けないように。いいな?」
うわぁ~、絶対そう呼ばれてイジメられてたんだ…
「じゃあ皆、野グソに質問は?」
おいっ!
「はい、島崎」
「野グソ君は埼玉でどんな音楽を聴いてたんですか?」
ほら定着した~。
「あ、あの…まず僕は野グソじゃないからね。それから埼玉じゃなくて火星だから!なに埼玉って。そんな政令指定都市の名前が平仮名でさいたま市だなんて所、知らないから!」
墓穴掘っちゃった!
「ご、ごほん、え~、僕は向こうでは洋楽を聴いてました」
…火星における洋楽って…どこを指してるんだろう?他の惑星ってこと?
「特にホッチリが一番好きです」
…ホッチリ?
「あ、失敬、こちらではレッチリと略すんでしたね。レッドホットチリペッパーズです」
ダサっ!火星人ダサっ!ホッチリって!居酒屋のメニューにありそうだよ!
「ホッチリって!アフフフフフ!」
先生!だからその笑い方やめてよ!
「アフフフフフ!」
なんで島崎もその笑い方するんだよ!キモいよ!
「アフフフフフ!」
あ!この声は!クラス委員長の田所さんだ!気になって戻ってきてしかも廊下で笑ってる!キモっ!
「他に質問は?…お、真島、なんだ?」
わぁ…クラスで一番怖い、番長格の真島君だ…野グソ君、いちゃもんとか付けられないといいけど…
「野口は火星にいたって言ってるけど、地球の空気で生きていけんのか?」
うぉう!信じてる!頭の悪さも番長級!
「大丈夫、心配ないよ。こっちに来る時に特製の機械をもらったから」
あ!あれ見たことある!喘息の人がシューパコパコってやるやつだ!
「すげー!それがあれば、逆に俺も火星で暮らしたりできるか?」
「もちろんだとも!」
「おう!心の友よ!さっさと寄こせ!」
「お安い御用さ!」
本人たちも気づかぬうちに主従関係ができた!
「俺、実はさ、宇宙飛行士になるのが夢でさ…」
あ、バカの真島が唐突に夢を語り始めた…
「宇宙飛行士になって、人類で初めて火星に降り立ちたいんだ。でも俺、バカだろ?だからその夢、諦めかけてたんだ。でもこいつのおかげで、また夢に向かって頑張れそうだよ!」
どういうプロセスだー!!どっちにしろもっと勉強しろ!
「素晴らしい!素晴らしいぞ、真島!」
先生!正気に戻って!
「凄い、偉いよ、真島さん!」
こらー、野口!同級生にさん付けするな!またイジメられるぞ!それからこれ君の紹介の場だったよね!?いいの!?
「(ガラガラ)カッコいい、カッコいいわ、真島君!この蛆虫みたいな野グソ野郎でも、何かの役に立つのね!」
田所さん、辛辣!そして正気に戻れ!
「まっじーま、まっじーま!」
島崎ー!正気に戻れ!
「まっじーま、まっじーま!」
クラスの皆~!正気に戻れ!そして野口君を思い出せ!
「よしっ!これで朝のHRを終わりにする!」
終わったー!?
「とりあえず野口、今は余った机が無いから、上田と共用してくれ」
えぇ!?先生、でもイスは?イスはさすがに…
「二人で半分コだ」
えぇー!?…はぁ、これでこのクラスのイジメられっ子は二人目……。
~続く~