火星での生活・3

「いててててて、ちょっと田所さん、離してよ!」
「うるさい、このくらい耐えなさいよ!杉並区民でしょ!」

そんな理由じゃ頑張れないよ!

「耳とか髪ならまだしも、喉仏をつかむのはやめてよ!痛いとかそれ以前に…不快だよ!喋りにくいし!」
「うるさい、このくらい耐えなさいよ!都民でしょ!」

範囲を広くしたって頑張れないもんは頑張れないよ!

バターン!!
田所さんは屋上へ続くドアを勢いよく開け、アスファルトの地面へ僕を放り投げると、また同じくらい豪快にドアを閉めた。

「さぁ、全てを洗いざらい話してもらいましょうか!あの野口が火星人じゃないってほんと?」

田所さんも信じてたんだ…

「んなわけないじゃないか。ちょっと考えれば分かるでしょ?」
「だから結局どっちなのよ!?」
「火星人なわけないでしょ!」
「なんですって!?キーッ!許せない、このあたしを騙してたなんて!あのイベリコ豚野郎!」

えーっ!?イベリコ豚ってあの、地中海沿岸地域に古くから生息していた野生の豚が起源とされるイベリア種の、遺伝的にも世界で類を見ないスペイン唯一の黒豚で、特定の地域にのみ生息しており、地中海性気候のもと、伝統的な放牧による飼育が今なお続けられていて、デエサと呼ばれる広大な樫の木やコルク樫の森の中の牧草地で放牧され、自然の恵みであるどんぐりや牧草を食べ、160-180kgまで太り、豊富な運動量によって赤身に脂肪が入り込み、霜降り状態になり美味しいハムができる、あの!?
高級食材だから褒めてるようにも聞こえるけど、結局豚だから、ひどい中傷だ!!

「ちょっと田所さん…」
「確かなの?」
「ほぼ間違いないよ」
「むぅ…クラス委員長のあたしを欺くなんて…意外にもなかなかやるじゃない」

僕もあなたの真の能力値に意外な思いだよ!

「上田、なんであんたみたいな腐ったキャビア野郎がこんなことに気づいたか知らないけど、あたしにも詳しいことを教えなさいよ」

えーっ!?キャビアってあの、トリュフ、フォアグラと並んで世界の三大珍味と称されている大変高級な食材で、一般にはチョウザメという魚の卵を指し、そのチョウザメという魚は、学名ではAcipenser、英語ではスタージャン(sturgeon)と総称され、外観がサメに酷似しているため、サメの一種と誤解されがちだけど、いわゆるサメ科の仲間ではなく、軟骨魚と硬骨魚の中間の魚で、皮を磨くとチョウ(蝶)の紋様が表れるというのが和名の由来で、体長は1~4mに達し、肉は美味で厄介な骨はなく、ベルーガ、アセトラ、セブルーガの三種類からしかキャビアは取れないという、あの!?
高級食材だから褒めてるようにも聞こえるけど、結局魚の卵だから、ひどい中傷だ!!

「説明って言われても…」
「あの野グソ君が一体何者なのか教えなさいって言ってるのよ!言わないとあんたとあたしの関係についてあることないこと言いふらすわよ!」

えぇ!?それで田所さんがいいなら!
…でも冷静になって考えてみるとやっぱり嫌なので、僕は彼に関して知っていることを全て教えることにした。

「…ふむふむなるほど、彼はとんでもないエスカルゴ野郎だったわけね…」

えーっ!?エスカルゴってあの、食用カタツムリで、マイマイ科の陸産の巻貝で、古代ローマ時代に…
(中略)
…高級食材だから褒めてるようにも聞こえるけど、結局かたつむりだから、ひどい中傷だ!!

「果たしてこれをクラスの皆にカミングアウトし、野口に赤っ恥をかかせて自殺に追い込むか、それともクラスの皆に言わずに、ネチネチ恐喝して自殺に追い込むか、どっちがいいかしら?」

どっちも最悪だよ!なんで結局自殺に追い込むんだよ!

「とにかくしばらく様子を見ようかしら。あいつが爽やかな好青年なら前者で、ムカつくクソ野郎なら後者でいくとしましょう」

田所さん誰よりも陰険!

「爽やかな好青年ならイジメは受けないし、きっとこんな嘘もつかないよ。ムカつくクソ野郎かどうかは知らないけど…」
「なるほど、さすがね。上田様(くりぃむしちゅー)と同じ名前を持つだけのことはあるわ」

あら、上田さんファン!?さらに幻滅!

「そういうことだから上田、絶対に誰にも言うんじゃないわよ。あんたにもちゃんとキックバックするから」

意味分かって使ってるの!?そしてそんな汚れた金はいらない!

クラス一押しの強い田所さんにこう出られたら、僕もNOとは言えない。僕はすごすごクラスへ戻った。
でも…今思ってみれば、こんなのまだ序の口だったんだ…。

クラスに戻った僕は、そこで恐ろしい光景を目の当たりにする。

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