衝撃だった。
ただもう衝撃だった。
だって、一体どこの誰が、体格こそそれほど良くはないものの、大の高校生が、輪になった数人の男子に空中でキャッチボールされている光景なんて、想像できるだろうか?
宙を舞っていたその男こそ、我らが火星人、野口だった。
「ジュッ、ピッ、ター、ジュッ、ピッ、ター…」
だからジュピターは木星だから!そして儀式色が増すからその掛け声やめてよ!
「し、島崎くん!危ないよ!やめなよ!」
「何だよ上田、うるっせーな。お前の個人情報をウェブ上に公開するぞ、コラ」
い、いやだよ!それイジメっていうか軽い犯罪だよ!軽犯罪だよ!
「い、いや、でも…」
「こいつがそうしてくれって言ったからやってんだよ」
「え!?」
「こいつが無重力状態に慣れるためにやってた訓練らしいぜ」
えぇ!?何墓穴掘ってんの?こいつマゾ!?
「真島さんが宇宙飛行士になるための第一歩だよ、なぁ、真島さん」
「あぁ」
じゃあ真島くんやりなよ!なに人にやらせてんだよ!
「いや、やっぱ慣れない内にやるのって怖いし、危険じゃん?」
まぁそうだけどさ…だんだん回すスピードも速くなってるし…
「おい、野口、今って無重力になってる?」
「う、うん、もうダイブいいんじゃないかな…そろそろ勘弁して欲しいな…」
あ!勘弁って言った!今勘弁て言った!リアルに声が遅れて聞こえてきてるよ!回転が速い!
「つーことは今離したらお前、浮くのか?」
浮くかー!!
それが理由で止めてもらえなかったのか!
「えー!?いや、離すと、いや、まだちょっとあぶ…」
「じゃあもっと速く回さなきゃダメだわ、真島さん」
「あぁ」
「あぁ」じゃないよ!死んじゃうって!さっきから蛍光灯にガッツンガッツン当たってるんだから!赤いモノ散ってるけどこれ血!?
「だ、大丈夫…ただの火星汁だよ…」
火星汁!?野口くん必死!
「ま、真島さん…ちょっと…今日ダメ、かも…無重力、生まれないかも…酸素の量とか…」
いや、たぶん関係ないよ…。
「そうだな。今日仏滅だしな」
いや、それもまず関係ないよ。
「じゃあ離してやるか。島崎せーので行くぞ」
「そっスね」
えぇ!?危ないよ!!せめてスピードを落としてから…
「ソーイ!!」
わぁ!!掛け声違うし!でもなぜに皆息ピッタリ!?
パリーン!!
うわぁ!!野口くんが!窓ガラスを突き破って飛んでいく!テレビだったら間違いなく放送事故として処理されるレベルの凄惨さだよ!!
「じゃ、俺、行くわ」
真島くん無駄に渋い!この緊急時に!
「そっスね。ポートボールしに行きましょ」
ポートボール!?
「ポートかぁ…もう飽きたな。スカッシュしようぜ」
スカッシュ!?
「ちょっと皆!早く野口くんを助けに行かなきゃ!」
「あぁ?うるせぇ、上田!都庁に爆発物入りの小包を届けるぞ、コラ」
それ僕関係ないし!そして普通に犯罪だよ!重めだよ!
「まぁ島崎、許してやれよ。一寸の虫と五分の魂だよ」
……それ何の格言!?所有格とかはっきりしないと意味不明だよ!そういう昔話かと思ったよ!
「そっスね。一寸のフェーイ!五分のスラーイ!ですね」
分からないとこテンションでごまかさない!島崎お前一番バカ!
「大丈夫大丈夫、あいつ拳銃で撃たれても死なねぇ、って言ってたから」
また墓穴!
「でもカッターとかはやめてくれって言ってたな」
あ、試されそうだからね…その知恵は働くんだ。
待って、皆、行かないで!そんなにゾロゾロ…スカッシュそんな大人数で出来ないから!そんなウォール街のビジネスマンみたいなスポーツをなぜ…
ハッ!そんなこと言ってる場合じゃない!野口くんを助けに行かなきゃ!
「野口く~ん!!」
あ、まさかあの緑色のプールにネズミの死骸と共に浮かんでいるのは…やっぱりそうだ、野口くんだ!う~ん、悲惨!
でも…あんまり好感度下げたくないけど、ぶっちゃけこんなヘドロみたいな汚いプールに入るのやだなぁ…別にあんまり友達じゃないし…
お、足元に誂えたように手ごろな太さのロープが!よーし、こいつを投げ縄の要領で…エイッ!アレ、意外とうまくいかない…そりゃっ!テイッ!しちめんどくせぇ…そらっ!ヤッ!
(六時間後)
やったぁ!!見事に野口くんを助け出したぞ!
「野口くん、野口くん、しっかりして!」
「う、ゴホッ…」
「大丈夫?」
「こ、こんにちわ…今日もスペイン坂スタジオからお送りしています…」
「うぉい!ほんとに大丈夫!?今すぐ保健の先生呼んでくるからね!」
「ホ、ホテトル嬢?」
「保健の先生!バカか!ちょっとしっかりしてよ野口くん、野口く~ん!」
~続く~