ライフ・アクアティック~ビル、やりたい放題~

 僕が初めてウェス・アンダーソン監督と出会ったのは、「天才マックスの世界(RUSHMORE)」であった。有名私立校、ラシュモア高校を舞台に(といっても開始30分くらいで退学になってしまうのだが)、クラブ活動狂いで勉強そっちのけ、放校寸前の天才児が美人教師に一目ぼれ、鉄鋼会社社長の友人に出資させて彼女のために水族館を建てようとするがバレて放校、友人の社長も教師に恋して二人でバトル、というだいぶブッ飛んだ話なのだが、とても心温まるコメディである。
 
 天才児マックス役のジェイソン・シュワルツマンの存在感も去ることながら(今度「ハッカビーズ」でジュード・ロウ、ダスティン・ホフマンとかと共演しますね。相変わらず眉毛が濃かった。)やはり、鉄鋼会社社長ブルーム役のビル・マーレイがメチャメチャいいですね。もともとコメディ出身なだけに(ゴーストバスターズとか)、地味に笑いを取ってくるあたりが、勉強になります。かつ、「ロスト・イン・トランスレーション」のように繊細な演技もこなしてしまうあたりが、心憎い役者です。

 そして!前二作に続いてウェスとタッグを組んだビル!今回は海洋冒険ロマン譚だ!「ライフ・アクアティック」、水中での生活というだけあって、海の話。鳴かず飛ばずで最近見放されつつある海洋探検家のスティーブ・ジィースー(でいいのかな?彼の作品は変な苗字が多い)と、そのクルー、そして突然現れた彼の息子の話。物語は、スティーブの相棒がジャガーザメというナゾの生物に殺されるという記録映像から始まる。全編に出てくるありえない生物たちが、明らかにインチキだが、可愛らしい。今回スティーブ役のビル、やりたい放題。海賊に銃一丁で立ち向かったり(しかもトランクスにバスローブ)。

 そして今回も音楽が非常にいい。全編にちりばめられた、ギター一本で奏でられるデヴィッド・ボウイのカバーが印象的。かと思えばテクノ(?)のような曲もあったり。衣装や音楽、小道具など、随所に彼の遊び心が満載された、まさにウェス・ワールドな作品なのである。

 語ればキリがないのでとにかく観てくれとしかいえないのだが、誰がなんと言おうが「ライフ・アクアティック」は父と子の物語。マックスとその父、ロイヤルとその子供たち、ウェス・アンダーソンの作品には、よく父子が登場する。お互い不器用なためにうまくいかないが、結局は大きな愛を再確認する。普段あまりに当然なために見過ごしてしまう大切なことを、彼は、社会にうまく適合できない変わり者たちを通して伝えようとしているのではないだろうか。

オフィシャルサイト  http://www.movies.co.jp/lifeaquatic/

恵比寿ガーデンシネマで上映中。

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