童夢~子供とじいさんがガチンコ・サイキック・バトル~

「くゎねぇだぁ~!!(金田)」「とぅぇとぅぉお~!!(鉄雄)」の絶叫シーンで有名な、天才大友克洋の傑作、「AKIRA」。(別にそれで有名なわけではない)

今回紹介するのは、その大友克洋が「AKIRA」の前年に発表した「童夢」という漫画です。

とある団地で謎の自殺事件が多発。怪しい人物は多数上がるが決め手がなく、ついに捜査に乗り出した警察からも被害者が出て、事件は暗礁に。そんな中、団地に越してきた不思議な力を持つ少女が、事件の真犯人が、幼児退行した、これまた超能力者の老人であると気づく。事件を阻止しようとする少女と、子供の遊びのように事件を繰り返す老人の攻防戦。

超能力を持つ子供や老人というところに、やはり「AKIRA」へのステップであったことが伺えます。(AKIRAでは極端に老化が進んだ子供だったけど)
また、「童夢」で描かれている「団地」が、「AKIRA」で描かれる「荒廃した都市」と似通った設定を持つという点も、見ていて興味深いです。ビルディングの描き方なんかは、大友さん独特の直線的な描き方で、それだけでも充分にかっこいいです。

別にテーマみたいなものがあるわけではないんだけど、「子供って残酷だよね」的な見方をどうしてもしてしまう作品です。悪役の(と言ったらおかしいが)老人は、幼児退行して子供の残虐さを取り戻したような人物で(しかもまた半端に大人の面もあるから厄介)、帽子やペンなど、つまらないガラクタを手に入れるために簡単に人を殺してしまう。価値観が逆転してたり、逆転してるわけじゃなくても、明らかに大人のそれとは違うところに、子供の怖さはあると思う。それが僕たちには分からなくても、きっと子供たちの中にはちゃんとルールが存在しているんでしょうね。それが「団地」と言う閉鎖空間と相まってさらに恐ろしく描かれています。

しかしこのじいさんは明らかに子供のルールとやらも無視している。それで超能力者の女の子と対決するわけだが、この描き方がまたカッコいい。1983年の漫画なのに(僕が生まれる前の年ですよ!)、全然古くない。かなりサイバーである。白黒反転の絵がカッコよかった。

また子供の残酷さみたいな話になるが、結局敗れた老人は本格的にボケ老人になってしまい、警察も法の手段に訴えることができない(証拠もないし、超能力だし)。しかし女の子は復讐を忘れない。最後には団地に戻ってきて老人を殺してしまう。最後のシーン、女の子に操られるように遊んでいた子供たちが老人を囲み、念じ殺す。一瞬の間を置いて、辺りは元のようなのどかな団地の午後に戻る。視覚的な怖さではなく、心理的に恐ろしいものがある。

大作ではないが、単行本一冊によくこれだけ凝縮したなと、驚いた作品でした(A5版の単行本です。ちなみに今は当たり前のように普及しているA5版というサイズ、実は大友氏が、「ハイウェイ・スター」を出版する時に無理を通して実現したサイズらしく、それ以降主流となったらしい。恐るべし、パイオニア大友。時代が彼についていったのです)。結構どこにでも売ってるので(BOOK OFF率高し)、是非一読あれ。

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