曲がる男~後編~

「…で、この先、この男はどうなるんですか?」

 編集部の竹田君は、こういうことにも割りと口を出すタイプの人だった(こういうこととはつまり、作品の展開や内容で、これは面白い、これはつまらない、全くつまらないからやめてしまえ、とか、そういった愛にあふれた助言をくれる人である)。

「そうですね、その後実家に帰って家業の農業を継ぎ、畑を耕しながら幸せに暮らす、とか何とか考えましたけど、つまらないからやめました」
「そうですね、それはやめといたほうがいいですね」
「…何かありませんかね?」
「結末を考えて書いてたんじゃなかったんですか?」
「まぁ書いてく内にに何とかなるだろうと思って。話が転がりそうな予感はあったんです」
「でも止まってしまった」
「まぁそうですね」
「まぁそうですね、じゃないですよ。締め切りがあることを忘れてませんか?せめてこの先結末がハッピーになるか、それともアンハッピーで終わるか、それだけは決めてくださいよ」
「どちらがいいと思います?」
「知りませんよ」
「なんだ、いつもみたいに色々助言くださいよ」
「今回は俺の好きに書かせてくれって言ったのはあなたじゃないですか。竹田君はいつも口出しし過ぎるって言ったでしょ?」
「それはそうですけど」

沈黙。冷めたコーヒーの匂い。ひたすらカタカタとキーボードを打つ音が聞こえる。案外この部屋は静かだ。

「実はね、それ実体験なんですよ」
「え?曲がったのがですか?」
「正確には違うんですけどね。僕の場合、逆だったんです。僕は生まれつき体が曲がっていてね、十二の時に何回か手術を繰り返して治したんですよ。だから今度は逆にある日突然そうなったらどうなるんだろうって思ったんですね。…その男、君はどうなったと思います?」
「さぁ…僕は幸せになってほしいですけど」
「…芥川龍之介のね、『鼻』ってあるじゃないですか。禅智内供っていう鼻の大きな僧の話。内供は大人や子供からからかわれたり馬鹿にされたりする鼻に劣等感を持って、伝え聞いた方法で鼻を小さくしてしまうでしょ?ところが逆に笑われるようになってしまう。人々としては、からかう対象がいなくなったのが、また嫌だったのでしょう。内供の鼻はある日元の大きさに戻り、彼は一安心する。なんとも恐ろしい話じゃありませんか。背中が曲がっていた頃の僕は、いわば鼻の大きな禅智内供と同じだったんですよ。手術で真っ直ぐな体になった時、やはり僕は鼻の短くなった彼と同じ気持ちを味わいました。障害者の僕に優しくしてくれた友も、興味を失ったように離れていきました。…僕はね、この曲がる男は賢い男だと思っているんですよ。彼は曲がった体を治そうとしないでしょ?自分に起こった事実を、時に受け入れなければならないと思っているんです。あの頃の僕がもしこの男と同じくらい賢かったら、もう少し幼少からの友人は多かっただろうし、それに、毎朝起きるたびに、また以前のように体が曲がっているのでは、なんて期待でも恐怖でもないような気持ちを、抱かなくても済んだんでしょうね」

Previously