火星での生活・7

沈黙が流れていた。嫌な沈黙である。

野口の母親に出されたお茶も、いい加減冷めている。

僕らは二階にある野口の部屋にいた。夥しい数のマンガ、小説、そしてデスクトップのパソコン、ノートパソコン、フィギュア、ガンプラ…所狭しと並べられている。分かりやすいくらい秋葉系である。

「私がどうしてここに来たか、想像つくわよね?」

沈黙を破って田所さんが切り出した。

もちろん、遊びに来たわけではない。それはもちろん野口にも分かっている。何かよくないことのために訪れたのだ。しかし何のために?具体的には何も分からなかった。

「そう、お察しの通り、あなたを恐喝しに来たのよ」

わぁ!ストレート!

「え、き、恐喝って、僕が何やったっていうんだよ!」
「じゃあ聞くけど、あんた、なんで火星人だなんてウソついてるの?」
「う、ウソじゃないよ!」
「じゃあこの家は何よ!これが火星人の住まいだって言うの!?」
「そ、そうだよ!」
「この意気地なし!(バチーン!)」

えぇ!?なんでビンタしたの!?

「もっとぶってください!」

もうやめろって!

「あんたが本当はただの埼玉県人だなんてことはとっくの昔に分かってたのよ!一体なんでそんなウソをついたのかは知らないけどね」
「……。」
「でも隠してるって事はそれがあなたの弱みってこと。だから私がここへ来たのは、その弱みに付け込んで、月10~30万の金銭を要求するためよ」

う~ん、説明は親切だけど内容は残酷だ!そして要求金額に微妙に開きがあるのも気になる!

「月10~30万!?そんな大金、僕には払えないよ!」
「じゃあ仕方ない、皆に本当のことを言うだけよ」
「それはやめてくれ!」
「なら払いなさいよ!」
「そんな大金、僕には払えないよ!」
「じゃあ仕方ない、皆に本当のことを言うだけよ」
「それはやめてくれ!」
「なら払いなさいよ!」
「そんな大金、僕には払えないよ!」
「じゃあ仕方ない、皆に本当のことを言うだけよ」
「それはやめてくれ!」
「なら…」

焦れったい!ループしてる!

「払えないわけないでしょ!あんたの家は共働き、そしてあんたは一人っ子、家は借家だけどそれなりに裕福なはずでしょ?」

説明口調!

「確かに僕の父、野口健太郎は某有名銀行の銀行員、母スミ子は近所のスーパーでパートとして働いている。僕こと野口健二はその二人の第一子として1988年、昭和63年に誕生、平成18年現在はいたって普通の高校生さ!この家は借家だけど庭付き一戸建て、でも結局二千八百万円、六百回ローンで購入することになり、しかも家族で毎年正月ハワイ旅行に行っているくらいの、割と裕福な家庭だよ!でもだからって月10~30万は…」

さらに説明口調!しかも裕福の基準がよく分からん!

「大学進学のために積立貯金してるでしょ!そいつを解約すれば月10~30万なんて楽勝でしょうが!」

なんでそんなこと知ってるんだよ!そしてそろそろ月いくら欲しいのか決めなよ!

「確かにそうだけど、そんなこと出来ないよ!そのお金がなくなったら、僕は東大に行けなくなっちゃう!」

さりげに望みが高い!お金の問題以前に大丈夫なのか?

「あんたが働きゃ済むでしょうが!」
「そんな無茶だ!月30万なんて大金…」

あ、最高額を採用した!

「ち、ちょっと田所さん…」
「なによ、アホの上田」
「…。確認したいんだけどさ、これって犯罪だけど、分かってる?」
「当たり前でしょ。恐喝は最も恥ずべき最低の犯罪行為よ」
「そう!その通りだよ。分かってるじゃない!……うん、で?」
「で?ってなに?」
「分かってるのにするって言うの?」
「そうだけど、何か?」
「いや…最も恥ずべき最低の犯罪行為なんだよ?」
「要はばれなきゃいいんでしょ?」

そういうことじゃないよ!倫理的に間違ってるよ!

「僕にはそんな大金…払えないよ!どう頑張ったって月25万が精一杯だよ…」

こらっ!充分!

「内臓でも何でも売ったらええやろが!」

ベタだ!何年か前問題になった!

「えぇ!?膀胱を!?」

なぜ膀胱なんだ!ほかに有用な内臓がたくさんあるだろうが!…ってそんな問題じゃない!

「イヤだ、何を失ったとしても、膀胱だけは絶対に!」

なぜ死守する!

「盲腸も絶対ダメだ!大事だ!」

いるか!切れ!

「他の臓器ならいい!二つあるから!」

例外がたくさんあるだろうが!心臓や肝臓!

「フェーン!」

泣くな!ベタに!

「ゴチャゴチャ言わずに払えばいいのよ!」
「イヤだ!」

ちょっと二人とも落ち着いて…

「これ以上近づくな!近づくと刺すぞ!」

ガンプラのビームサーベル!それじゃあ刺せないよ!

「やってみろや!」

田所さん豹変!

ドスッ!!

静寂。体を折るようにゆっくりと崩れ落ちる田所さん。腹部を押さえたその両手からは、真っ赤な血が噴き出している。

「ええぇぇ!?」

だって所詮プラスチックだよ!?樹脂だよ!?なんでこんな怪我を!?
田所さん、しっかりして!

「あ、網目…(ガクッ)」

……なに今の最後の言葉!!

いや、そんなことどうでもいい、死んじゃった、田所さんが死んじゃったー!!

~つづく~

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