火星での生活・9

「お、なにやってんの、お前ら」
「…いや、別に…」
「朝までお楽しみってかぁ?ヒューヒュー!」

古いな、島崎…

「この穴は?なに、落とし穴?」
「いや、これはその…あれだよ」
「こんなとこ掘っても誰も落ちねーべさ」
「うん、だからね、その…この穴はほら、あれだよ」

野口!お前もなんか喋ってくれ!逆に怪しいから口笛吹くな!

「分かった!真島さん、きっとあれだよ!」

つ、ついにバレたか…

「タイムカプセルだ!」

やったー!再び救われたー!バカ万歳!ヒラリー!

「そう!タイムカプセルだよ!よく分かったね」
「やっぱりな~お前らだけでタイムカプセル埋めようなんて水くせーなぁ」
「いや、はは、まぁね…」

とりあえずその方向でごまかすしかない…早く帰ってくれ…

「でもよう、島崎、だとしたらカプセルはどこだ?」
「そういえばそうっすね。おい上田、どこにあんだよ?」

し、しまった…

「もしかしてさっきのダッチか?あんなもん埋めてどうすんだ?報われない過去とさよならって感じか?」

チキショウ、余計なお世話だぜ…

「あ、このシーツかぶってるやつじゃないすか?真島さん」
「あ!いや、それはちが…」
「おう、きっとそうだ」
「真島君!違うんだよ!」

二人がそんな制止を聞くはずもなく、白いシーツは剥ぎ取られた。そこには鬼のような形相をした田所さんの死体があった。

「こ、これは…鬼のような形相をした田所の死体じゃねーか!」

うわっ!びっくりした!島崎、僕の心読んでる?

「ほ、本当だ、まるでこの世に未練を残したように歪んだ表情だ!」

真島君もつられて文学的!

「お、おい、お前ら、こ、田所、こ、こ、殺したのか?」
「ち、違うよ!これは…ただの事故だよ!」
「だってお前、これ、腹んとこに血がついてんじゃねーかよ!」
「落ち着け、島崎、この人殺しめ!」

真島君も落ち着いて!

「あ、間違った、殺したのはお前だ!上田!この人殺し!」
「そうだ!お前モヤシみてーな姿形しやがって!」

くそぅ、それはとりあえず関係ないだろ!

「僕じゃない、僕がやったんじゃない…」
「じゃあ誰だってんだよ?」

僕が諦めて野口の名を出そうとした時、誰も予想しなかったことが起こった。

「犯人は野口よ!!」

一瞬、その場の空気は凍ったように止まり、全員の目は起き上がった田所さんに一斉に向けられた。間違いようもなく声はそこからしたのだ。

「うぎゃぁぁああ!!」
「ちょっ、島崎君、落ち着いて…」
「し、死人が!死人が生き返った!うわぁぁぁあああ!」

だから落ち着けって!それにあんまり動き回ると…

「うおっ、とっとっと、やばい、穴が…ぎゃぁぁぁぁっ!!」

ほら言わんこっちゃない!島崎が僕らが掘った穴に落ちた!一大事!

「てめぇ、この野郎、よくも島崎を!」

いや、勝手に落ちただけだよ…

「かかってきやがれ、この幽霊女!俺の華麗なステップに付いて来れるかな?」

ちょっと、華麗なのは分かるけど、そんなに動いたら…

「うおっ、とっとっと、やばい、穴が…ぎゃぁぁぁぁっ!!」

お前らバカか!なぜ勝手に落ちる!とりあえず一大事!

「バカなやつらね…」

うん、否定しない。そんなことより…

「田所さん…生きてたんだ」
「当たり前でしょ。ビームサーベルごときで人が死にますか」
「でもあの血は…」
「フェイクよ。死んだフリしてあんたらがどうするか見ようと思ったの。脅しのネタになるかと思って」
「そんなぁ…」
「さすがに埋められそうになった時は焦ったけどね」
「僕らが一体どれだけ焦ったか…第一僕なんて無関係なのにさ…」
「そんなことより上田、野口が逃げたわ」

え?あ、本当だ!いない!いつの間に!

「あんたと真島たちが口論してる間にいなくなったのよ。早く探しに行かなきゃ」
「でもあの二人は…」
「大丈夫、さっき担任の松沢を呼んどいたから。あいつが何とかしてくれるわ」
「えぇ?そんな担任を呼びつけるなんて…」
「いいのよ、あの写真が…おっと、なんでもないわ」

なに今の!?こえーっ!でもとにかくこの場はスルーして野口君を探さなきゃ!

とりあえず僕らは穴に落ちた真島と島崎を放っておいて、野口君を探しに行くことにした。気が付けばもうすっかり夜も明け、学校や仕事場へ向かう人たちがちらほらと見える。時計を見るとちょうど七時を指していた。野口はどこにも見当たらない。

「ダメだ、田所さん、どこにも見当たらないよ…家に帰ったのかな?」
「そうかしら?私はそうは思わないけど…それより上田、やけにパトカーが多いと思わない?」

そういえばさっきから結構な台数が通り過ぎている…場合が場合なだけに嫌な予感がした。

その時、真っ赤なベンツが僕らの前に止まった。運転席から顔を覗かせたのは、学園のアイドル、社会科の川村先生だった。

「ちょっと、あなたたち、今登校途中?」
「まぁ、えっと…」
「はい、似たようなもんです」
「そうなんだ…珍しい組み合わせね。朝帰り?」

さらっとなんてことを聞くんだ…。

「違います」

当然だけどあっさり否定するなぁ、田所さん。

「そんなことより、先生っていつもこんなに早く出勤するんですか?」
「そうだ、それが大変なのよ。うちの生徒が校舎の屋上から飛び降りようとしてるらしくて…ほら、最近転校してきた…なんて言ったかしら、あの子」

それってもしかして…

「松沢先生のクラスの子よ。松沢先生がさっきから全然連絡取れなくて」
「それってもしかして…野口ですか?」

僕はそう聞きながらも、違ってくれればいいと思っていた。でもそんな希望は鼻から叶うはずがなかった。

「そう、野口君!埼玉から転校してきた。彼が飛び降りようとしてるの!」

なんてことだ…事件は最悪の展開を見た。

「田所さん…!」
「分かってるわ。先生、今から学校に向かうんですよね?」
「えぇ、そうだけど…」
「僕たちも連れてってくれませんか?」

学校へ向かう途中の車の中で、僕は関係のないことばかり考えようとした。やっぱりベンツの座り心地は違うなぁ、とか、なぜ川村先生はベンツになんか乗ってる

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